アジア園芸学大会AHC2023の報告(2023.9.28)

 第4回アジア園芸学大会Asia Horticultural Congress (AHC2023 https://ahc2023.org/ )は,2023年8月28日から31日まで東京大学本郷および弥生キャンパス(農学部)で開催されました。日本約300人,韓国約200人,中国約150人のほか,タイ,インドネシア,マレーシア,オーストラリア,アメリカ,イタリア,アラブ首長国連邦など合わせ参加者は786人でした。参加国数・参加者数ともに予想以上とのことでした。そのため,大会最終日のエクスカーションが当初の1日コースAに加えて,1日コースBと3日コース(東北地域)が追加されました。

 本郷キャンパス伊藤国際学術研究センターにて開会式および招待講演がありました。29~30日の研究発表は,口頭発表(発表時間15分)が9分科会で約177件,ポスター発表が108件と大盛況でした。

経済経営系はSeed, Sustainability,  Economics(種子,持続可能性,経済学)という分科会に属し,この分科会では21本の口頭発表がありました。私はJapan’s flower and plant industry in the COVID-19 pandemic(コロナ期の日本の花き産業)を発表しました。

いくつか紹介します。タイでパーケージボックスを管理して,保存期間を長くし,流通を改善する研究Performance of thermal insulation box in extending shelf-life of kale under simulated transportation(輸送シュミレーションによるケール(野菜)の保存期間延長における断熱ボックスの成果)。同じくタイの研究で,循環型経済を意識して,カカオの豆や殻の廃棄ロスを少なくし,付加価値を高め,生産性を上げる研究Upgrading the cocoa value chain in nan province based on local resources and circular economy principles(地元資源と循環経済原則に基づいたナーン省のカカオのバリューチェインの改善)。柿の果実をパキスタンやイランからアフガニスタンに輸入し,苗木を育て(接ぎ木),柿木を栽培し,果実をアフガニスタン国内で販売した事例研究Persimmon cultivation in Afghanistan: from import to local production(アフガニスタンの柿栽培:輸入から現地生産まで)がありました。

アメリカ花き産業の研究Shifts in the American Floriculture industry:expert insight by secto(アメリカの花き業界の変化:部門別経営者の知見)では,アメリカ花き産業の歴史を19世紀後半から紹介し,1980年代以降は切花生産が減少し,輸入が増加している現状を説明しました。2020年に業界の大会があったとき,参加した経営者らに現状認識,改善策を聞いたアンケートを取り,キーワードをグルーピングする方法で問題や経営戦略を分析していました。地元の小企業と国際的企業では経営戦略が大きく異なっているという結果を示しました。アメリカの花き産業は,輸入に押されているが,(都市近郊)小規模農家と郊外大規模農家に2極化しながらも頑張っているとのことでした。この研究を発表した研究者は私の発表について,日本の花き産業が停滞産業となっているのはなぜかと質問してくれました。日本経済の平成長期不況,若者の花離れなどを回答しました。

ポスター発表の中で注目したのは,Economies of scale in constructing plant factories with artificial lighting and the economic viability of crop production(人工照明による植物工場の規模の経済とその作物生産の経済的有効性)(千葉大学)という研究です。レタスとイチゴについて工場の規模の経済を実証し,損益分岐点となる規模(工場の面積)を推計しています。

他には,molecular analysis of white-flowered mutant in fragrant cyclamen(香り高いシクラメンの白花変異体の分子解析),Molecular analysis of flavonol biosynthetic genes in two white flowered cyclamen(2つの白い花を咲かせたシクラメンのフラボノール生合成遺伝子の分子解析)(ともに埼玉工業大学)がありました。埼玉大学がシクラメンの香りや色の研究を始めたきっかけはあの歌(真綿色した…)だそうです。今後,チューリップも対象に入れてほしいと要望してきました。

 バラの香りを研究する中国人研究者と出会いました。食用花,チューリップアイスクリーム,チューリップ饅頭の話に関心を持ってくれました。アメリカの研究者もチューリップのソフトクリーム,チューリップ饅頭にはびっくりでした。

 最終日のエクスカーションで私が参加したコースAは,柏市にある千葉大学の直物工場と,つくば市にある国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構の果樹茶業研究部部門,独立行政法人国立科学博物館が管理する筑波実験植物園の計3箇所の見学でした。私としては植物工場の経済性,最適規模,他の作物やコメとの複合経営が気になるところです。富山県のように,農業以外からの新規参入も進んでいます。若い農業経営者がどのように植物工場を取り入れるのかに注目したいと思います。

2023年9月28日 新里泰孝